認知症の方に対するコミュニケーション術の一つにバリデーション療法があります。バリデーション療法は認知症患者の言動に対して共感と傾聴の姿勢が基本とされていますが、バリデーション療法によって認知症患者の問題行動が改善されたという例があります。
これは幻覚症状が多かった、ある認知症患者の例です。たびたび、部屋に不審者がいるという幻覚を訴える認知症患者に対して、介護職スタッフは、「大丈夫ですよ」という安心させるような声掛けや、パニックになっている間、そばにいるなどの対策をとっていました。しかし、認知症患者の症状はなかなか改善せず、パニックによって暴れることも増えてしまいました。
そこで、介護者はこの認知症患者に対して、バリデーション療法を取り入れることに。不審者の幻覚の訴えをごまかしたり、見えていないと決めつけたりするのではなく、どこに不審者がいるのか、どんな人なのかというような具体的な質問を繰り返しました。すると、次第に落ち着くようになり、依然として幻覚はあってもパニックになることはほとんどなくなったそうです。その経験から介護者は、認知症の方の質問への答えに対してしっかりと話を聞くようにしたといいます。
バリデーション療法では、認知症の方の言動には必ず理由があると教えられます。介護職スタッフが具体的な質問をして、しっかりと傾聴を行ったことで、認知症の混乱した脳内が整理され、自分が受容されていると感じ、問題行動の改善につながっているのです。